2010年03月26日
暗殺と背徳渦巻く国際犯罪都市ドバイ(8・完)
(注)マイライブラリー(前田高行論稿集)で全文をご覧いただけます。
8.犯罪者のラスト・リゾート:ドバイ
これまで7回にわたってドバイを舞台にした麻薬、横領、セックススキャンダル、暗殺事件を追ってきた。これらの事件は今も次々と露見しており、例えばドバイ国際金融センター(DIFC)の前長官が14百万ドルを不正に着服したとのニュースも流れている。昨日(3/25日)にはドバイ政府とその傘下企業のDubai WorldおよびNakheel社が総額260億ドルに達する債務返済計画を発表した。個々の債権者との交渉は難航が予想され、ドバイ経済がいつ本格的に復旧するのか見通しは立たない。今後も摘発により犯罪者に転落するバブル紳士が後を絶たないであろう。
このような国際犯罪都市ドバイで実は唯一発生していない種類の犯罪がある。それは社会騒擾事件―アル・カイダなどイスラム過激派によるテロ事件、或いはシーア派による扇動デモなどの社会騒擾事件である。サウジアラビアではこのようなテロ事件が多発し、政府はテロ撲滅のため多くの時間と労力と金を費やしている。それに対しドバイではテロ事件は全く発生していない。その理由についてドバイ政府がテロ組織と密約を交わし、金銭的支援の見返りに自国をテロ事件に巻き込ませないようにしているというまことしやかな噂もある。またドバイには数十万人単位のシーア派イラン人がいる。イランの核開発に強く反対するGCC各国を牽制する目的で、イラン政府がドバイ在住のイラン人を扇動することも可能である。
しかしこのようなテロ事件やシーア派騒擾事件が全く発生していないのは何故であろうか。その理由はドバイが裏社会の人間にとって居心地がよく、これを今のまま温存することの価値が極めて高いためであると言えよう。アラブ・イスラムの真っただ中にありながらドバイはほとんど世界各地から集まった外国人で占められている多人種・多国籍都市である。また外国人にとってドバイは入国及び出国が容易であり、さらに飛行機便が発達しているためいつでも、どこからでも、またどこへでも行くことができる極めて便利な都市である。
これを犯罪の側面から見ると、追われる者にとっては隠れ家としてドバイが有用であり、同時に追跡者にとっても秘かにターゲットを暗殺するのにもってこいの場所と言える。また高度に発達したドバイの金融システムは、密貿易の利益、横領着服した金、テロ組織への送金などあらゆる秘密資金の洗浄(マネー・ロンダリング)に利用できる。
もしドバイでイスラム・テロ事件が起これば欧米から圧力がかかりドバイ政府は取締を強化せざるを得ず、そうなれば暗殺者もその標的となる者も群衆に紛れ込むことが難しくなる。また資金洗浄を厳しく取り締まれば秘密資金うぃ流せなくなる。それは裏の組織だけでなく各国の諜報機関による資金の移動にも支障をきたす。イスラエルの諜報機関モサドなど一部の外国政府組織或いは地下組織、テロ組織などにとってはドバイの闇の部分が必要である。ドバイは必要悪なのである。
そのような中で偶々事件として発覚したのがこれまで述べた暗殺や金銭スキャンダルである。これらは多分氷山の一角に過ぎないであろう。発覚しなかった事件、今もひっそり隠れ続けている者も多数いるはずである。或いは真実が解明されないまま行きずりの旅行者の死として扱われた者もいたかもしれない。美貌の歌姫殺人事件(第5回参照)、ハマス幹部暗殺事件(第7回)などは事件が表面化したまれな例かもしれないのである。
ドバイがこれまで築き上げてきた航空・物流などのルート・インフラ或いは金融取引のための国際通信インフラ、そしてホテル・娯楽施設など国内の観光インフラは周辺国の追随を許さない。従ってこれからも湾岸諸国はもとよりアラブ・イスラム圏さらには世界中からドバイに「ヒト」、「モノ」、「カネ」が集まることは間違いない。そして華やかな「光」の裏側には必ず「陰」があり、ドバイはこれからも犯罪の温床であり続けるであろう。ドバイは「ヒト、モノ、カネ」の全てを次々と際限なく吸収するまさにブラックホール都市になりつつある。ドバイは普通の善良な観光客のためのリゾートと言うだけにとどまらない。ドバイは犯罪者のためのラスト・リゾートでもある。ドバイに「国際犯罪都市」の烙印がついて回ることは避けられないようである。
(完)
本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maedat@r6.dion.ne.jp
トラックバックURL
コメント一覧
Hogan Interactive Donna http://www.associazionitraumi.it/wp-rss3.php
christian louboutin pas cher http://onwebconcept.fr/wp-pass.php