2010年03月30日
GCCの外国人の給与水準(2010年版)(1)
(注)本シリーズはブログ「マイ・ライブラリー(前田高行論稿集)」で全文一括してご覧いただけます。
1.はじめに
ドバイで発行されている月刊経済誌「GULF BUSINESS.COM」は毎年1月号に「The Business Salary Survey」を公表している。これはGCC6カ国(サウジアラビア、UAE、カタール、クウェイト、オマーン及びバハレーン)の各国ごとに外国人の職種別、出身地域別月額給与を調査した一覧表であり、各国の給与水準或いは前年との変化を見る上で極めて興味深くまた有用なデータである。
一覧表は大企業のCEOから役員秘書まで代表的な22の職種についてGCC各国ごとの平均給与を示しているが、さらにこれら各職種に就く外国人の出身地によってアラブ圏出身者、アジア圏出身者及び西欧諸国出身者毎の3つの一覧表から成り立っている。即ち全データの数は22職種x6カ国x3表=396である。
(表の全容はhttp://menadatabase.hp.infoseek.co.jp/1-I-1-50SalarySurveyInGcc2010.xps参照)
GCCには極めて多数の外国人が働いており6カ国合計では約1,300万人と推定され、全人口3,500万人の4割弱に達する(GOIC:2006年データ)。この比率は各国によって異なるが、特にUAEなどでは人口の85%が外国人と言われている。また年齢的にみると外国人の場合はほとんどが成人の就労層であり、一方自国民は未成年の若年層が半数を占めているため、実際の労働人口に占める外国人の比率は人口の比率以上に大きい。さらにUAE、カタール、クウェイトなど人口の絶対数が少ない国では、大半の自国民は公務員であり、民間部門で働く自国民は極めて少ない。たとえばクウェイトではクウェイト人のうち民間部門で働く自国民はわずか4%に過ぎないという調査結果もある。
このようにGCCの民間部門はほぼ全員外国人によって支えられているのである。これら外国人は大きく三つに分類される。即ち、企業のトップ、中間管理職、専門職などのSenior Staff(上級職)、事務所、商店などで事務員、店員などとして働くJunior Staff(下級職)及び建設現場の労働者、道路清掃人などの肉体労働者(Worker)に区分される。
本稿で取り上げるのはSenior Staffの外国人であるが、この階級は西欧流の職種別給与体系が採用されており職種間の給与格差は大きい。さらにGCC諸国では外国人の出身地域による給与格差があり、一般的に言えば西欧出身者の給与水準が最も高く、アラブ圏出身者がこれに次いでいる。これに対しアジア圏出身者は同じ職種でも給与水準が最も低いことが特徴である。これはGCCの民間部門が西欧のシステムによって発展した歴史的経緯があること、またアラブ圏出身者は言語(アラビア語)及び宗教(イスラーム)が同じであり、生活文化に共通点が多く企業経営者にとって必要性の高い人材だからである。
なおGCCの外国人のもう一つの大きな特徴は、彼らが全て労働ビザで就労しており、しかもビザの有効期間が1乃至数年と非常に短いことである。これは西欧各国の外国人労働者が移民として半永久的に働くことを目的としていることと大きく異なっている。そのためGCCの外国人労働市場は流動性が高く、また石油価格の変動による各国の好不況の影響を受けやすいと言える。
このようにGCCの外国人の給与体系は就労する国により、また職種、出身地域によって大きな格差がある。本稿では2010年の給与水準を国別に比較し、また前年との給与の下落(或いは上昇)を職種別に比較、さらに中長期的傾向として2006年から2010年までの5年間の給与水準についてそれぞれ検討を試みる。
(続く)
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