2010年06月29日
シェールガス、カタールを走らす(5)
5.ガスOPEC結成を模索するカタール
4月19日、アルジェリアのオランで第10回ガス輸出国フォーラム(Gas Exporting Countries Forum, 略称GECF)の閣僚会議が開催された。GECFは2001年にイラン、ロシア、カタール、アルジェリアなど世界の主要な天然ガス輸出国によって結成され 、当初は規約、メンバー資格、常設本部組織も無く各国持ち回りで会議を開いていた。
ところが2002年頃から石油価格が急騰したこと、及び地球温暖化の問題が広く認識されるようになったころから、天然ガスが俄かに注目を集めるようになり、天然ガスは売り手市場の様相を示し始めた。そのような状況下で2006年及び2007年にウクライナ経由でヨーロッパにロシア産天然ガスを送るパイプラインが止まると言う事件が発生した。これは天然ガス価格を巡る純粋な経済紛争と言うより、当時のウクライナ民主政権が西欧への接近を試みたことに対しロシアが政治的圧力をかけ実力行使に踏み切ったためであった。
ヨーロッパ諸国はロシアとアルジェリア産の天然ガスに消費量の4割を依存しているが、これら2カ国にイラン、カタールを加えたGECF4カ国のエネルギー担当相がこの当時頻繁に顔を合わせた。このため世界中のメディアは、GECFがガス版OPEC即ちガス輸出国カルテルの結成を目論んでいる、と言う情報を流した 。GECFが天然ガスの供給削減をちらつかせ価格の吊り上げに走るのではないか、という警戒心がヨーロッパ諸国に拡がった。
それまでのGECFはフォーラムと言う名前が示す通り天然ガス輸出国同士の顔合わせの場であり、毎年の会議でも情報交換を行う程度にとどまっていた。しかも2006年当時の世界は好況で天然ガスは石油と同じく価格上昇の恩恵を蒙っていた。また同じ天然ガスの輸出でもロシアなどパイプライン型とカタールのようなLNG型では市場も価格体系も異なっているため、両者が共同歩調をとる余地は少なかった。特にLNG貿易の場合は供給者(輸出国)と需要家(輸入国)は一対一の長期安定契約がほとんどであり、市場の競争原理が働かずLNGの国際貿易は余り注目されていなかった。
GECF加盟国の中で資源ナショナリズムの強い反米強硬派のイラン及びベネズエラはガスOPEC推進派の急先鋒であったが、親米派のカタールはカルテル結成に反対した。世界最大の天然ガス輸出国ロシアは賛否どちらともとれる曖昧な態度に終始したため、2008年の第7回ドーハ会議ではガス版OPEC結成問題は正式議題には取り上げられなかった。
しかし同会議ではこれまでの加盟国持ち回り方式に変えGECFの常設本部を設置することが決議され、翌2009年にカタールのドーハに本部が設置された。本部の議長にはアッティヤ・カタール副首相兼エネルギー相が選任され、またロシアの資源エンジニアリング企業ストロイ・トランスガス社のレオニード・ボハノフスキー副社長が初代事務局長に選任された。カタールが名実ともにロシアと並ぶ天然ガス大国として認知されたのである。
こうしてGECFは天然ガス輸出国の国際組織として表舞台に登場、今回の閣僚会議で天然ガス価格の統一価格方式を打ち出すための作業部会の設置が決定された 。GECFが「ガス版OPEC」となるため呱々の声をあげたと言って間違いないであろう。
GECFの常設本部を誘致したことによりカタールは天然ガス市場の供給者側のキープレーヤーに躍り出た。しかし国際的に認知されることは同時に国際的な責任を負うことでもある。カタールはロシア、イラン、ベネズエラなど一癖も二癖もあるメンバーを束ねなければならず、さらには天然ガス消費国であるヨーロッパ諸国と正面から対峙しなければならない。しかもそのような内敵・外敵に囲まれた中で自国の利益も守らなければならない。それがどれほど大変であるかは、OPECの盟主サウジアラビアを率いるナイミ石油相を見ればよくわかる。
ちっぽけな小国でしかないカタールの元首であるハマド首長と同国エネルギー部門のトップであるアッティヤ副首相兼エネルギー相の真価が問われている。
(続く)
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