2010年08月26日

荒葉一也SF小説「イスラエル、イランを空爆す」(7)

ナタンズ爆撃(2)
 ちょうどそのころ幹線道路から分かれナタンズに向かう軍用道路をトラックが土煙を上げながら走っていた。荷台にはイスファハンの市場で仕入れた野菜や果物、肉類など食料品が山積みである。モスクから朗々と流れる夜明けの祈りの声を後に出発して数時間。目的地まであとわずかである。太陽がじりじりと照りつけるこの時間、往来の車がほとんどない荒野の直線道路は睡魔が襲ってくる。彼はラジカセのボリュームを眼一杯上げ、メロディーに合わせて大声を出しながらハンドルを握っていた。

その時フロントグラスの斜め、ペルシャン・ブルーそのままの碧空にきらりと物体が光った。ハンドルに両手を預け身を乗り出してその方角を見ると、3本の矢が真っ直ぐこちらに向かってくる。3本の矢がやがて一本の巨大な槍に変身したとき、運転手はそれが3機のジェット戦闘機であることに気がついた。イスファハン郊外の空軍基地から飛び立つジェット機を見慣れた運転手も、このような辺鄙な場所で急降下する戦闘機を見るのは初めてである。彼は眠気も忘れ固唾をのんで凝視した。

 先頭のジェット機から一筋の白く細い煙が立ち上り、すぐに二筋目の煙があがった。小さな物体が地上の建物に猛スピードで突っ込んでいった。巨大な砂煙があがり大きな爆発音が連続して聞こえた。道路が脈動しトラックは危うく路肩をはずれそうになり、運転手はあわててハンドルにかじりつきブレーキを踏んで急停車した。様子を確かめようと窓を開けた運転手の顔を熱風と砂塵が襲いかかった。砂煙の中から戦闘機が急上昇するのを運転手は茫然と眺めていた。

(続く)
(この物語はフィクションです。)



drecom_ocin_japan at 04:19コメント(0)トラックバック(0)荒葉一也シリーズ  

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