2010年08月31日
荒葉一也SF小説「イスラエル、イランを空爆す」(9)
ナタンズ爆撃(4)
「作戦成功!」。「エリート」は小さくしかし興奮に震えた声で本部基地に伝えた。基地で司令官以下の幹部が快哉を叫ぶ姿が目に見えるようであった。<親父もきっと喜んでいるに違いない>中東戦争の勇士と称えられはるか遠くにあった父親の背中が少し近くなったような気がした。これで無事に帰還すれば正真正銘の「エリート」になれると彼は確信した。
ナタンズ爆撃作戦は結局バンカーバスター5発を撃ち込んで終了した。「アブダラー」機にはまだ左翼にバンカーバスター1発、そして胴体下部に小型核ミサイル1発を残していた。しかし異変に気付いたイラン戦闘機がイスファハンを緊急発進していることは間違いなく、現場に長くはとどまっていられない。2発のミサイルを抱いた「アブダラー」機を含む3機は急上昇しイラン領空外へと向かった。レーダーはイスファハンの空軍基地を発進したイラン機がすぐ後ろに迫っていることを示していた。
イラン機が国籍不明機を発見した時、既にイスラエルの3機はナタンズ爆撃は終わった後だった。イラン空軍にはAWACSのような優秀な早期警戒機もなければ、防空レーダー網も貧弱である。さらに彼らが保有している戦闘機は一時代前のもので性能も劣り俊敏なF16に遠く及ばない。結果的にイラン機は緊急発進したものの、空爆を阻止できなかったばかりでなく、F16に追いつくこともできず、彼らをやすやすと領空外に逃亡させただけであった。
イランからイラク領空に戻った3機は往路のルートを逆にたどり基地に帰還するだけである。燃料計は既に四分の一以下になっており自力での帰還は難しいが、途中まで空中給油機が迎えに来る手はずになっており何も心配することは無い。------はずである。
しかし基地の指令は思わぬものであった。3機に対して進路を南に変更しペルシャ湾上空をホルムズ海峡に向かえ、と言うのである。3人のパイロットは我が耳を疑った。
(続く)
(この物語はフィクションです。)