2010年11月23日

迫るサウド家の世代交代(下)

(注)本レポートは「マイライブラリーに一括掲載されています。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0162SaudRoyalFamily2010.pdf

3.権力の世襲を進める第二世代
 ベドウィンの部族社会を基盤とする湾岸GCC諸国はかつては自らの力で権力を奪取することが普通であった。アブドルアジズ初代国王が宿敵ラシード家を倒し、アラビア半島全域を武力制圧したことはよく知られている 。オマーンのカブース現国王或いはカタールのハマド現首長が宮廷クーデタで実の父親から権力を奪ったのはいずれもごく最近のことである。

 しかし近年はこのような下剋上による宮廷クーデタの動きは影をひそめ、権力の座を平和裏に継承するルールが生まれつつある。サウジアラビア以外のGCC諸国では国王或いは首長の子息(通常長男)を皇太子に指名し自分の死後王位を継がせる、いわゆる「直系長子世襲制」が一般的になりつつある。しかし第二世代に異母兄弟の多いサウド家では系統を一本化する機運は熟していない。

 後継争いをめぐるお家騒動を避けるためアブダッラー国王は2006年に「忠誠委員会」を設置した。委員会はサウド家の第二世代の王子全員(王子が故人の場合はその子息)が関与しており、後継者選びにおける一族内の平等の原則が保持されている。これはファハド前国王がスルタン、ナイフ、サルマンなど同母の弟を重用した弊害を避けるためと考えられる。

 この結果、最近では王位と言う最高権力の争奪をめぐる合従連衡の動きは表向き見られない。その反面、第二世代には自己の保有する権力を息子(第三世代)に世襲させる動きが顕著になってきた。アブダッラー国王が最初の入院直後に自らが兼務していた国家警備隊最高司令官の地位を3男のムッテーブに譲ったことはその例である 。この人事異動では国王は副司令官で異母弟のバドル王子の職を解いている 。これは息子の司令官としての地位を盤石にするためと言えよう。一方、数十年にわたり大臣の地位を保っているスルタン国防相やナイフ内相もそれぞれ息子を国防相副大臣(ハーリド)や内相補(ムハンマド)に任命しており、いずれ大臣の地位を譲るつもりであることは間違いないであろう。(図「サウド家王族の閣僚・政府要人」http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/3-1-1MinisterAndProminentPrince.pdf参照)
 
このような動きは将来国王が交代しても現在自らが掌握している組織の勢力を温存しようとする第二世代の王族の思惑だと考えられる。

4.予測される当面の動き
 アブダッラー国王の後継国王にスルタン皇太子が即位すること既定路線である。スルタン即位後に「忠誠委員会」により次期皇太子が選任される訳である。これまでポスト・スルタンとして何人かの王族の名が下馬評にのぼっているがいずれも決定打に欠く。

 サウド家はベドウィンの伝統である「話し合い(マジュリス)」を尊重する。そのため王子達はたとえ王位に対する野心があったとしても、公然と名乗りを上げることはない。「忠誠委員会」の構成メンバーは同母兄弟、異母兄弟の第二世代、そして彼らの息子達の第三世代など複雑に入り組んでおり、舞台裏で秘密裏に多数派工作に動けば、他の王族から顰蹙を買いむしろ逆効果になる恐れもある。

 これらの事情を勘案すると、第二世代(或いはその遺児の第三世代)の王族は、当面、状況の推移を静観しつつ現在自己の保有する地位を息子達に継承し、来るべき権力交代時に備えるものと思われる。

 一つ気がかりな点は国王不在中に実質的な采配を振るうスルタン、ナイフ及びサルマンの同母3兄弟が後継者問題に何らかの手を打つ可能性が潜んでいることである。彼ら自身は全員高齢で健康問題を抱えている。そのためいずれかの家系(例えばスルタン家)の第三世代を次期皇太子とし、他の湾岸諸国のように「直系長子世襲制」を導入する可能性も否定できない。ただこの場合、皇太子の座を巡って三家系の第三世代の王子たち(つまり互いが従兄同士の関係である)の間に軋轢が起こるかもしれない。それ以上に非スデイリ系統の29人の忠誠委員から強い反発の出ることが予想される。

王族が当面は事態を静観し、自己の権力基盤の補強に努めるのではないかと書いたのはそのような意味も含めてのことである。

以上

(前回の内容)
1.国王、脊椎痛治療のため米国へ
2.皇太子ほかの王族閣僚にも健康不安


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 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
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drecom_ocin_japan at 09:41コメント(0)トラックバック(0)Saudi Arabia  

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