2011年03月29日
危機感を露わにする湾岸君主制国家(4)
(注)本シリーズ1~5回は前田高行論稿集「マイ・ライブラリー」で一括ご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0175GccCrisis.pdf
(お断り)本シリーズのテーマであるGCC各国の情勢は時々刻々変化しており、個々の記載内容は掲載時点の最新情報に基づいています。従ってシリーズの前後で記述内容あるいは事実関係に齟齬を生じるかもしれませんので予めご承知おきください。
アメとムチ:「懐柔策」と「抑圧策」(その2 国民にへつらう政府)
中東北アフリカには長期政権の国が多い。民衆パワーで倒れたチュニジアのベン・アリは23年、エジプトのムバラクも29年という長期にわたり大統領を務めた。現在内戦状態にあるリビアのカダフィ大佐に至っては41年以上も最高権力者の座にある。そしてイエメンのサーレ大統領は32年、シリアのアサド大統領も父子二代を通算すると40年間権力を維持している。これらの国はいずれも共和制で大統領は任期4~7年、憲法には多選禁止の規定がある。しかし一旦権力を握った大統領は憲法を自らの手で改悪して強権体制を築き、その結果上記のような長期独裁政権が続いたのである。
これに対し、湾岸諸国は君主制であり権力の正統性(legitimacy)は支配者の血統にある。その意味では例えばバーレーンの場合、現ハマド国王は即位後12年であるが、実際の権力期間はハリーファ家が権力を掌握した1783年以来の二百数十年間であり、その他のGCC各国についても同じようなことが言える。つまり湾岸君主制国家の方が権力期間は長い。
ただ国民にとって共和制の大統領と君主制が異なるのは、前者は自分たちが選んだはずの大統領がいつまでも居座り続けることに最初は違和感を、そして次第に反感を抱くようになる。これに対し君主制では支配者一族のみが代々権力を継承するが、そのような支配体制が百年以上続くと、一般国民はその状態に慣らされ、権力者の暴政や過酷な搾取などがないかぎり体制打倒のエネルギーは蓄積されない。
特に湾岸諸国のような場合、富の源泉が国民の努力とは無関係な天然資源であるため、支配者に対する不満が表面化しにくい。為政者は天然資源の富の一部を国民に還元することで彼らの不満が表面化するのを防ぐことができる。それが「バラマキ行政」である。
勿論国民大衆の不満は経済的な面だけでは解消されない。ある程度の生活水準が確保されると、次に国民は言論の自由と政治への参加を求めるようになる。それは就職難と社会的逼塞感にとらわれている若者に顕著に表れる。それに対して為政者は制度、組織などに手をつけることで不満を吸収しようとする。いわゆる「ガス抜き」である。為政者は自らの既得権益を損なわない範囲で国民に「へつらう」政策を打ち出す。それが国民の権利拡張をうたった憲法の一部手直しなど法律、制度の改革であり、或いは閣僚の首をすげ替えるなどの政策対応となる。これらはいずれも場当たり的でその場しのぎの彌縫策であり懐柔策である。
GCC各国で行われたこのような懐柔策には下記のようなものが見られる。
(1) バーレーン
反政府組織は政治犯の釈放、ハリーファ首相の退任(ハマド国王の叔父で在任期間が40年を超える)及びシーア派国民に対する差別廃止を求め真珠広場を拠点に大規模なデモ活動を行った。これに対してサルマン皇太子(国王の長男)はTVで連日対話を呼び掛けたが、反政府運動は収まらず、ついに23名の政治犯を釈放(2月23日)、また内閣改造を行いエネルギー相など閣僚数名が交代した(2月26日)。
(2) オマーン
オマーンはスルタン国王が40年以上にわたり首相、国防相、外相及び蔵相を兼務する極端な権力集中型の構造であるが、国民の忠誠心が高いため国王に対する批判は見られない。しかしその分、他の閣僚がスケープゴートになっており、2月下旬以降わずか10日の間に3回の内閣改造が行われている(2月26日、3月5日、3月7日)。国民は更なる民主化を求めておりこれまで立法府としての十分な権限を持っていなかった諮問議会に立法権及び監査権を付与する勅令が出された(3月13日)。
この他UAEでは連邦国民議会選挙(FNC)を9月24日に実施することが告知され(3月17日)、サウジアラビアでも4月23日に地方議会選挙を行うと発表した(3月23日)。但しUAEのFNCとサウジアラビアの地方議会はいずれも権限が大幅に制限されており、サウジアラビアでは女性の投票も認められていない。両国政府の発表は民主化への取り組みのアナウンスメント効果を狙ったものと言えよう。またクウェイトでは政府を批判するジャーナリストに対する訴追を全て取り消すと発表しメディアに秋波を送っている(2月13日)。
(続く)
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