2011年04月27日

MENA騒乱でサウジアラビアとカタールが見せた対照的な外交活動(下)

(注)「マイ・ライブラリー」で(上)(下)を一括してご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0177SaudiQatarDiplomacy.pdf

2.カタールの場合:「アラブの同朋よりも欧米のご機嫌取り」
 内戦の泥沼状態にあるリビアで反カダフィ側のベンガジ臨時政府(Libyan National Transition Council)に対するカタールの肩入れは尋常ではない。フランスが国際社会で最初に臨時政府を承認するとカタールも間髪を入れずこれに追随した 。現在までのところ臨時政府を承認した国はこの2カ国のみであり、勿論アラブ世界ではカタールが唯一である。


 カタールの臨時政府に対する支援はこのような外交的手段にとどまらない。軍事面ではNATOによる飛行禁止空域(no-fly zone)作戦に協力して自国の仏製ミラージュ戦闘機6機を派遣 、3月25日にはリビア上空の偵察飛行に参加している 。支援は経済面にも及んでいる。カタールはタンカーを差し向けて臨時政府支配地域にある原油100万バレルの輸出に手を貸し、一方臨時政府が必要としているガソリン、軽油などの石油製品をベンガジに届けたのである 。勿論同国は西部の激戦地で戦火を避けて海上からリビアを脱出する避難民に対して輸送船を手配するという人道支援も行っている 。


 国連安保理事会でリビア問題が提議された時、事態を放置すれば一般市民が無差別で非人道的な危険に晒されるため、国際社会として介入する必要があると主張したのは英仏であった。これに対しロシアと中国は政府・反政府双方の話し合いによって解決すべきであり軍事介入は内政干渉になると反対した。またアラブ諸国の世論も欧米の介入に懸念を示した。安保理決議に持ち込むために二つの理由付けが必要であった。一つは一般市民の生命財産を守る人道的な介入に限ること。そしてもう一つはリビア周辺のアラブ諸国の支持取り付けであった。


 このためアラブ連盟は安保理に先立ってリビアno-fly zoneの設定を決議した 。決議の背後で米英仏の意を受けたカタールが強力な根回しを行ったことは想像に難くない。これを受けて3月17日に安保理ではロシア、中国の棄権によりリビア空爆が決議された。こうしてカタールは早速戦闘機を派遣したのである。


 実はカタールがリビアの問題に関与するのはこれが初めてではない。2007年にリビア国内でエイズ感染事件が発生し、リビア政府はブルガリアから派遣されていた看護婦が意図的に犯した犯罪であると断定し身柄を拘束した。これに対してブルガリア政府の意を受けたフランス政府が事件解決に奔走したが、その時、リビア政府と仏政府の間に立って裏工作をしたのがカタールのハマド首長であった。問題が無事解決した時、フランスのサルコジ大統領はカタールの名をあげて同国をほめそやした 。ハマド首長は同時にリビア側からも感謝され大いに男を上げた。これが幸いしてカタールのアル・ジャジーラTVはリビアに深く食い込むこととなった。今回の騒乱でアル・ジャジーラが貴重な映像を流すことができるのもそのためである。


 アル・ジャジーラがアラブ圏の視聴者に圧倒的な支持を受けていることは言うまでも無い。それは2003年の多国籍軍によるイラク解放戦争の際、国際メディアの中で唯一アル・ジャジーラがフセイン・イラク大統領(当時)に認められ、バグダッドから中継したことでわかるが、今回のリビア報道でもそのことが証明された。


 但しアル・ジャジーラが西欧に対するアラブの立場を主張しているかといえば必ずしもそうとは言えない。アル・ジャジーラのモットーは「事実をありのままに伝え、対立する双方に平等に発言させる」ということである。確かにそのニュース番組はありのままを報道し、討論番組では対立する議論を平等に取り上げている。それは一見報道機関としての中立の姿勢を堅持し公平無私に見える。国営放送が報道を牛耳っているアラブ諸国の中でアル・ジャジーラが貴重なメディアであることは紛れもない事実である。欧米にとってもアル・ジャジーラは頼もしいメディアだ。


 しかしアル・ジャジーラの姿勢はそれ以上でもそれ以下でもない。報道にはアル・ジャジーラ自身の主張が殆ど見られない。悪く言えばアル・ジャジーラは紛争と無関係な平和なアラブの茶の間の視聴者に対して彼らが喜びそうな悲惨なニュースを提供するセンセーショナルな報道媒体に過ぎないとも言える。


 またアル・ジャジーラは一見自由な報道姿勢を保っているように見えるが、実際にはカタール政府の強い規制の下にある。その本質は政府の外交方針に忠実に従うということである。カタール政府の方針はとりもなおさずハマド首長の意向でもある。アル・ジャジーラは小国カタールの国際的な評価を高めようとするハマド首長の道具の一つである、と考えるのが理にかなっている。


 そのため同テレビが独自の主張を持つことは許されない。アル・ジャジーラではディレクターからアナウンサーまで全て出稼ぎの外国人である。身分の保証がない彼らは首長の意向に逆らった番組を報道すれば直ちに解雇される。同国には真の報道の自由は無いのである。


 その事実は今回の一連の報道を見ればわかる。アル・ジャジーラは、エジプトに次いでリビアについて連日詳しく報道している。しかし目の前の隣国バーレーンの状況については殆ど報道していない。バーレーンについて報道する場合、必然的に政府側に立つか、反政府側に立つかを迫られる。カタールは一方の立場に立つことができないのである。民主主義という錦の御旗のもとで反政府側に立てばそれはバーレーンの王制或いはスンニ派による支配を否定することになる。カタールのハマド首長としてそれは自らに跳ね返ってくる問題である。一方、政府側に立てばアル・ジャジーラを通じて中東の民主化を標榜するハマド首長の表向きの立場と矛盾するのである(カタールそのものが非民主主義的な国家であるという事実は隠せないが)。

 
 イソップ寓話に卑怯な蝙蝠の話がある。鳥と獣が争った時、蝙蝠は鳥が勝ちそうになるとそちらに行って自分は鳥の仲間であると言い、獣が勝ちそうになると自分は獣の仲間である、と訴えて保身を図るという話である。ハマド首長はまさにこの蝙蝠だと言えないだろうか。カタール政府そしてハマド首長はある時はアラブの同朋として振る舞い、或る時は民主主義の旗振り役を買って出て西欧に追随する。そこにあるのは一貫した主義主張ではなく、カタールという国或いはハマド首長自身がいかに高く評価されるかという功名心のようである。


 そして今、ハマド首長は自分の名声獲得のため「アラブの同朋よりも欧米のご機嫌取り」の姿勢を鮮明にしている。もし彼の賭けが成功すればノーベル平和賞も夢ではないだろう。ハマド首長は案外それを本気で考えているのかもしれない。カタールは2022年のサッカーワ-ルドカップ開催国としての勲章を得た。次は首長自身が勲章を目指す番だと考えているとしてもおかしくないはずだ。


(完)


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drecom_ocin_japan at 17:04コメント(0)トラックバック(0) 

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