新・アラビア半島定点観測 前田高行責任編集

 Manal Al-Sharif、32歳、女性、サウジアラムコ勤務のIT専門家、

　Manal Al-Sharifはサウジアラビア東部のアルコバールで自動車を運転中に逮捕され10日間拘留された 。サウジアラビアでは女性が自動車を運転することは禁止されている。女性の運転を禁止しているのは世界広しと言えどもサウジアラビアだけである。欧米諸国や世界の人権団体は女性に対する差別待遇だとして強く非難しているがサウジ政府の姿勢は変わらない。

　これまでも進歩的女性活動家たちが抗議の意思を示すため逮捕を覚悟でリヤドやジェッダなどの大都市の路上で運転を行い新聞紙上をにぎわしたことは何度かある。その都度当局は彼女たちを拘束し始末書を書かせた末に父親或いは男兄弟に引き渡すと言うことが何度か繰り返された 。

　今回の報道がこれまでと異なるのは逮捕された女性の年齢、職業と共に顔写真(上記)が掲載されたことである。どのような犯罪にしろ新聞が犯罪者のサウジ人女性の写真を載せたのは前代未聞の初めてのことである。これまでの女性運転事件も活動家の女性による確信的な犯行であり自身の顔が新聞に掲載されることをためらわなかった(或いはむしろそれを意図していた)であろうが、新聞サイドは自粛していた。

　この女性は現在最も注目されているインターネットのYouTubeに、自動車の傍に立った自分のビデオ映像を投稿しており、確信犯であることは間違いない。そして彼女が働いているアラムコ社では構内での女性の運転が認められているのである。今回新聞が写真を公開したのは女性の運転の問題がもはやサウジ国内で公に議論されるべき状況になっていると考えたからであろう。

　リヤドなど大都会の中流以上の家庭では車を２台所有し、１台は夫が通勤に使用、他の１台は運転できない妻や娘或いは未成年の子供たちの買い物や通学のために外国人の運転手を雇っている。しかしこの場合、妻や年頃の娘たちは男性の運転手と同乗することになり、それ自身がイスラムの教えに抵触しかねない際どい問題であり、サウジ人家庭を悩ます問題となっているのも事実である。

　また地方都市の農家などでは作物を農場から自宅に運ぶため、女性がライトバンを運転することは珍しいことではなく、当局も大目に見ざるを得ないと言われる。また子供の通学時に偶々運転手がいないためやむを得ず母親が運転するケースもあり、杓子定規に取り締まる当局に対して異論が多い 。

　女性に運転免許を与えることが社会的、経済的問題の解決になるとする新聞論調も現れ始めた 。さらに女性の運転はイスラム法に反しないとするイスラム法学者もいる 。但しこのような法理論は未だ少数意見にとどまっており、大多数の法学者は女性の運転に否定的なのも事実である。今年１月、女性の運転解放を求める136人の請願書が提出されたが、そのうちの38人は男性であり、一般国民の間に男女を越えた運動が広がっていることを示している 。

　そもそもサウジの法律の中には女性の運転を禁止する明文の規定がないことからもサウジ政府の対応に批判が投げかけられている。しかし今回のManal Al-Sharif事件に対して内務省のAhmad副大臣(スルタン皇太子、ナイフ内相の実弟)は、女性の運転は明白に違法である、と断言している 。

　6月17日には女性による抗議の運転デモが計画されており、成り行きが注目される。但しManal嬢は釈放の条件としてデモに参加しないことを誓約させられている、とのことである。

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