2012年05月30日
「アラブの春」は「報道の自由」を生んだか(3)
(注)本レポートはブログ「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括ご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0227MenaRank9.pdf
(MENAなんでもランキング・シリーズ その9)
4.主要国の2007年~2012年世界順位の推移
(表http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/5-9aPressFreedomTable.pdf参照)
本項では主な国の2007年から2012年までの「報道の自由」世界順位の推移を見ることとする。なお全世界の調査対象国数は2007年が169カ国であり、その後年々増加して今回(2012年)は179カ国に達している。このため順位の単純な比較には多少の問題があるが、ここでは各年の順位をそのまま用いている。
イスラエルは2007年には世界44位、2008年46位であり、世界の上位グループに位置し、MENAの中では飛びぬけて報道の自由度が高いと評価されていた。しかし2009年には一転して世界175か国中の93位に急落、それ以降も2010年86位、2012年92位と低迷しており、MENAの中でもクウェイトより下位にランクされるようになっている。これはヨルダン川西岸への入植地拡大(2009年以降)やトルコのガザ支援船拿捕事件(2010年)などでジャーナリストの自由な取材を制約したことにより外国メディアの同国に対する評価が厳しくなっているためと考えられる。
バハレーンのこれまでの順位は118位(07年)→96位(08年)→119位(09年)→144位(10年)→173位(12年)であり2009年以降急激に悪化している。同国には古くからスンニ派の少数派政権に対し人口の7割を占めるシーア派による根強い抵抗運動があったが、昨年の「アラブの春」によってこの運動に一気に火がつき大きな騒乱事件に発展している。このことがメディアの取材にも影響し2010年、2012年と連続して順位が大きく低下したものである。
エジプトの場合は2007年から2009年までの3年間は140位台半ばが続いていた。2010年には127位まで上昇したものの、2012年には一挙に166位に後退している。同国では1981年以降29年間にわたり強権政治が続き、その間メディアは自由な取材を妨げられたため「報道の自由」は低い評価にとどまっていた。2011年にムバラクが退陣した後イスラム勢力が台頭したことと西欧を中心とする外国メディアによる「報道の自由」の評価が急落したこととの因果関係が指摘される(上記3項参照)。
チュニジアはエジプトと同様ベン・アリ大統領が21年間の独裁政治を行なってきたが、同国の順位は145位(07年)→143位(08年)→154位(09年)→164位(10年)と年々下落した後、2012年には134位と劇的に改善している。同国の場合はベン・アリ政権末期になるほどますます強権政治になり、それが2011年の「アラブの春」革命の結果ムスリム同胞団系の穏健政党が国会の多数を握り、治安が安定し報道の自由が確保されたことがジャーナリストの評価のアップにつながっている。
上記の国々に対しイランは166位(07年)→166位(08年)→172位(09年)→175位(10年)→175位(12年)と世界の最低ランクに低迷し、近年は悪化の傾向すら見受けられる。MENAの平均順位も115位(07年)→120位(08年)→127位(09年)→133位(10年)→138位(12年)と毎年悪化している。調査対象国の数が毎年1乃至4カ国増加していることを考慮しても、MENAの報道の自由度が低落していることは疑いようがない。「アラブの春」が報道の自由を期待させるものであったとしても現在のところでは社会的混乱がメディアの自由を奪っているのである。
(完)
本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp
トラックバックURL
コメント一覧
chaussure christian louboutin http://www.clairedargaud.com/escarpin-louboutin-pas-cher.html
chaussure christian louboutin http://www.azelec.net/images/about.php