2013年09月26日
(ニュース解説)政権を支持する?しない?-各国の外交方針は朝令暮改・支離滅裂(7)
(注)本レポートは「マイライブラリ:前田高行論稿集」で一括してご覧いただけます。
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3.政権支持・不支持の決め手
ここまで諸外国がエジプト、シリアに対してどのような外交方針で臨んできたかを検証したが、それではこれら諸外国が政権を支持し或いは支持しなかった決め手について米国、サウジアラビア、カタール、ロシア及びフランスの5カ国を取り上げて私見を述べてみたい。
(1)米国の場合:民主主義か?中東和平か?それともーーーーー
米国の政治の大義が民主主義であり、思想の根底に人道主義があることに異論はないであろう。さらに自由主義・資本主義に対するゆるぎない確信もある。人道主義の根本がキリスト教の博愛精神であることは言うまでもない。米国政府と国民は自分たちこそがこれらの理想を実現するための「世界の警察官」として最も相応しいと自負している。そのため彼らは自分たちの価値観に反する主義主張によって世界の安定が損なわれるとみなした時には容赦ない実力行使に踏み切る。実力行使とは軍事力のようなハードパワーだけでなく、経済制裁など相手を国際社会から締め出すためのソフトパワーも含め硬軟両様の圧力を行使するのである。
中東に当てはめると、これまで米国の価値基準は「地域の安定」にあったと言えよう。目的はイスラエルの安全確保とペルシャ湾のエネルギー確保であった。イスラエルの安全が保障されるのであればエジプトの強権的で非民主的なムバラク軍事政権に対する物心両面の支援を惜しまなかった。イラクのフセインやシリアのアサドのような独裁政権であっても、それが一国内に収まっている限りは黙認し、サウジアラビアなどペルシャ湾岸の君主制国家についても各国の国内情勢が安定している限りは民主主義を押し付けなかった。
しかし「アラブの春」が地域を席巻すると米国はこれを「中東民主化」というスローガンに置き換え各国の強権的な独裁政権に「ノー」を突き付けた。米国政府は日頃の外交方針として民主主義、人道主義を掲げている手前、アラブの民衆が民主化を求めた時真っ先に呼応せざるを得なかった。但しそれはあくまで各国の反政府運動を支持すると言う間接行動にとどまり、米国自身が直接行動を起こした訳ではない。内政に干渉しないのが米国の鉄則であり、それはアフガニスタンでの直接軍事介入、イラク戦争での同盟国との軍事行動が米国の国益にとってマイナスでしかなかったという反省を踏まえたものであった。
米国の大統領が日頃やりあう相手はイスラエルロビーにおびえる上下両院の議員であり、或いは4年ごとの大統領選挙の金づるである資本家たちである。議員や資本家たちは日頃民主主義や人道主義のようなイデオロギーとは無関係である。議員にとってはイスラエルの安泰が議員ポストの安泰であり、資本家にとってはペルシャ湾の石油が安定的に出回ることこそ利益なのである。彼らにとっては相手国が強権的な軍事政権でも専制的な王制でも構わない。
これに対して米国市民は民主主義、人道主義を唱える。しかしよくよく考えると彼ら市民にとって地球の反対側の遠く離れた中東のことなど普段は気にも留めないはずである。彼らは自分たちの生活が脅かされない限り遠く離れた外国の事件に一々行動するとは思えない。ディープ・サウス(米国南部)で平和な生活を送る市民たちは間違いなく保守的であり内向きである。しかし「アラブの春」の報道で9.11テロのトラウマがよみがえった。米国市民は政府の行動を要求したのである。大統領はそれを無視できず勇ましい発言を繰り返している。
(続く)
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