2015年03月13日

サルマン新体制によるサウジアラビアの今後を占うー石油、外交政策および第三世代(2)

(注)本レポート1~4は「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。

http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0338SaudiRoyalFamily2015.pdf

 

2.石油政策:ナイミ石油大臣はいつ誰と交代するのか?
 サウジアラビアでは国王が首相を兼務する(統治基本法56条)。1月29日、サルマン国王兼首相は彼にとって最初の内閣を組閣した。第一副首相にムクリン皇太子、第二副首相兼内相にムハンマド副皇太子を任命し、外相、国防相などの重要閣僚ポストおよび財務相、商工業相などの主要経済閣僚は留任した。重要閣僚ポストはサウド家王族の指定席であり、一方重要経済閣僚ポストは代々ベテランのテクノクラートの指定席である。石油鉱物資源相として留任したナイミもその一人である。


 ナイミ石油鉱物資源相(以下石油大臣と略す)は世界のエネルギー業界では誰一人知らぬ人の無い人物であり、今やベテランとかテクノクラートといった形容詞を超越した存在であると言えよう。彼が最初に石油大臣に就任したのは1995年であり、今年で20年目を迎える。実はサウジアラビアに石油鉱物資源省ができて以来、石油大臣の数はわずか4名にすぎない。最初の石油大臣はタリキ(1960-1962年)、二人目はOPECを率いて世界を震撼させたヤマニで24年間にわたって(1962-1986年)石油大臣を務めた。その後ナーゼル大臣を経て1995年にナイミが第4代の石油大臣となり現在に至っている。ナイミは1935年生まれ、今年で80歳になる。


 健康に問題は無いようであるが年齢的に見て石油大臣の激職は大きな負担であり早晩身を引くことは間違いないであろう。今年6月のOPEC総会がその花道になるのでは、という観測も流れている。彼の辞任説は今に始まったことではなく、2007年の内閣改造時にもメディアに交代の噂が広がった 。彼が最初に石油大臣に任命された1995年は病弱のファハド国王にかわりアブダッラー皇太子が摂政となり国政の実権を掌握した年でもある。以来ナイミはアブダッラーに忠誠を誓い、またそれに恥じない活躍を続けてきた。アブダッラーとナイミの信頼関係は極めて強固であった。


 しかし大臣就任以来20年が経過、かつての石油鉱物資源省の若手も中堅からベテランの域に達し、そろそろ世代交代の時代に入った。その先頭に立っているのがサルマン国王の息子で今回副大臣に任命されたアブドルアジズである。アブドルアジズはサルマン国王の4男で1960年生まれ 。20代後半には石油鉱物資源省次官補となり、アラビア石油の利権更新問題ではサウジ側の窓口として活躍、その後OPEC本部勤務を経て最近では新エネルギー開発にも携わっている。今年55歳になる彼は家柄、年齢、経験ともに申し分ない人物であり、ナイミ石油大臣の後任として下馬評が高いのは当然である。筆者もアブドルアジズ副大臣がかなり近い将来(サルマン国王の目が黒いうちに)、ナイミ石油大臣の後任に指名されるものと確信している。


 但しそのことがサウジアラビアにとって本当にベストな選択であるかという点については若干の疑問を禁じ得ない。上記の歴代石油大臣を見ていただきたい。いずれもベテランのテクノクラートであって王族ではない。実はクウェイト、UAEなど他のGCC産油国も石油大臣はいずれもテクノクラートである。産油国において国家財政の根幹を成す石油大臣のポストは極めて重要であり、またOPECメンバー国の担当大臣として国際的な地位が高い。名誉と地位を求める王族にとって石油大臣は極めて魅力的なポストのはずである。しかるに王族ではなくテクノクラートが任命されるのは何故であろうか?


 そこには石油大臣ポストが抱える落とし穴があるからである。石油は世界のエネルギーの中枢を占めており、産油国(その多くは開発途上国である)は先進国を中心とする消費国と常に利害調整を迫られ、他方市場では需給バランスによる大幅な価格変動のリスクに対処しなければならない。昨年から今年にかけての原油価格の大幅な下落に対してサウジアラビアは市場シェアを重視し、米国のシェールオイルとどちらが先に倒れるかと言われる苛烈なチキンレースを始めた。その結果同国の歳入は激減している。ナイミ石油大臣の石油政策(それはとりもなおさずアブダッラー前国王の政策でもある)が問われている。ナイミがその責任を取らされてもおかしくない状況なのである。つまり石油大臣ポストは極めて不安定であると同時に、問題が起こった(あるいは最高権力者が問題ありと判断した)時、首を挿げ替えることのできるポストとみなされている。またそれによって最高権力者自身も直接の責任追及を免れることができると言える。


 ところがアブドルアジズが石油大臣に就任すれば石油政策にミスがあっても国王の息子を首にすることはできないであろう。せいぜい副大臣または次官クラスのテクノクラートをスケープゴートにするのが関の山である。責任があいまいになることは間違いない。ちなみに同じような例をサルマン自身に見ることができる。彼のリヤド州知事時代の1990年代半ばにリヤドで過激派テロが頻発したことがあった。欧米諸国であれば知事が引責辞任するケースであるが、彼は兄のナイフ内相の助けで知事の職を保持したのはその一例である。


 石油がらみで今回もう一つ不可解な人事があった。アラムコの副社長二人がほぼ同時に辞めたことである。一人はKhalid Al-Buainain技術サービス担当上級副社長であり、彼は1980年に入社、住友化学工業との合弁事業PetroRabigh会長も兼務していたが、3月初めにアラムコを離れた 。もう一人はSamir Al-Tabibエンジニアリング担当上級副社長である。彼の場合は何と国防省のプロジェクトマネジメント責任者(director)に転身している 。国防大臣のムハンマドはサルマン国王の7男でアブドルアジズ副大臣の異母弟である。ムハンマドがどのような目的で異母兄の石油省から副社長を引き抜いたのかその意味するところは甚だ興味深いが、部外者が理解するのは極めて難しい。


(続く)


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 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
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drecom_ocin_japan at 11:38コメント(0)トラックバック(0) 

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