新・アラビア半島定点観測 前田高行責任編集

(注)本レポート上下は「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0368SovereignRating2016Jan.pdf

（２）新興国：BRICｓおよびアジアの発展途上国の格付け
(表：http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/1-G-3-01.pdf参照)
　アジア・オセアニア地域ではオーストラリア、シンガポールおよび香港が英独など西欧諸国に並ぶAAAの格付けである。東アジアの中国、韓国、台湾はAA-である。上記（１）にも触れた通り日本はこれら３か国よりも１ランク低いA+とされている。東南アジア諸国ではタイがBBB+、フィリピンはBBBの投資適格であるが、インドネシアは投資不適格のBB+、ベトナムはさらに低いBB-である。

　BRICｓ諸国のうち中国は上記の通りAA-であるが、インド及び南アフリカは投資適格では最も低いBBB-とされ、ロシア及びブラジルは共にBB+の投資不適格の格付けである。

（３）MENA諸国
　イスラエルを含むMENA諸国１９か国のうちS&Pが格付け対象としているのはカタール、クウェイト、UAEのアブダビ、サウジアラビア、オマーン、バハレーンのGCC６カ国の他、イスラエル、モロッコ、トルコ、ヨルダン、エジプト、レバノン及びイラクの１３か国である。なおイラクは前回までソブリン格付けがなされていなかったが、今回格付けされている。

　これら１３カ国の中で最も高い格付けを受けているのはカタール、クウェイトおよびアブダビのAAであり、これに続くのがサウジアラビアおよびイスラエルのA+である。カタールなど３か国はフランスと同格で、サウジアラビア、イスラエルは日本と同じ格付けである。オマーンはBBB+とされ、モロッコおよびバハレーンがイタリア、インドと同じ投資適格としては最も低いBBB-である。

　トルコは投資不適格または投機的とみなされるランクのBB+であり、これはロシア、インドネシアあるいはブラジルと同ランクである。またヨルダンはBB-であり、エジプト、イラク及びレバノンはCCCランク一歩手前の格付けB-とされている。S&Pの格付け定義ではBBは「経済状況の悪化に対して不確実性、脆弱性を有しており、状況によっては債務を履行する能力が不十分となる可能性がある」とされており、またBは「現時点で債務を履行する能力を有しているが、経済状況が悪化した場合には債務を履行する能力や意思が損なわれやすい」とされている。

３．今回(１月１日現在)と前回(昨年７月１日現在)の比較―改善されたヨーロッパ諸国
　本稿で継続的に取り上げている国々について、半年前の昨年７月１日現在の格付けと今回の格付けを比較すると、いくつかの国は格付けが上昇または下落している。
　
　格付けが上昇した国はオランダが前回のAA+からAAAに上がっている。おなじユーロ圏にあるスペインはBBB→BBB+にアップしており、ポルトガルもBBからBB+へと投資適格まであと一歩まで戻っている。またギリシャは放漫財政の結果、破たんの危機に瀕し、前回はS&Pの定義で下から３番目のCCC-でデフォルト(債務不履行)一歩手前であったが、今回はCCC+まで改善している。因みにCCCはS&Pの定義では「債務者は現時点で脆弱であり、その債務の履行は、良好な事業環境、財務状況、および経済状況に依存している」というものである。

　韓国もA+からAA-に１ランクアップし、中国、台湾と同ランクになった。これに対して日本は逆にAA-からA+に落ちており中国、韓国、台湾よりも低い格付けにとどまっている。先進国の中でも最悪水準にある国債の発行額とそのGDPに占める比率に改善の兆しが見えないことがS&Pの評価を低めたと考えられる。

　日本以外で格付けが下がったのはサウジアラビア(AA- →A+.、日本と同じ)のほか、オマーンがA-からBBB+に落ちている。オマーンは前々回(昨年１月１日現在)はAであり、１年間で２ランクさがったことになる。またブラジルも投資適格のBBB-から投資不適格のBB+に落ちている。サウジアラビアと共に石油価格の下落が同国の財政に深刻な影響を与えているためと見られる。

以上

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