2016年07月07日
流入・流出共に上向くMENAの直接投資:UNCTAD「世界投資レポート2016年版」(6)
(注)本シリーズは「マイライブラリ(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。
(MENAなんでもランキング・シリーズ その4)
3.2015年のFDI outflows(FDIアウトバウンド) (続き)
(外資流入に頼るトルコ、エジプトとオイルマネーが外国に向かうカタールとクウェイト!)
(2)主要国のFDI Inflows(FDIインバウンド)とFDI Outflows(FDIアウトバウンド)の差
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/areha_kazuya/4-G02.pdf参照)
トルコ、イスラエル、UAE、サウジアラビア、エジプト、カタール及びクウェイトのMENA主要7か国のFDIインバウンド(FDI Inflows、第1章参照)とFDIアウトバウンド(FDI Outflows、第2章参照)を比べると各国ごとの違いが見受けられる。
トルコ、エジプト、イスラエル、UAE及びサウジアラビアの5カ国はFDIインバウンドがFDIアウトバウンドを上回っており外国からの投資が盛んであることを示している。中でもトルコとエジプトはインバウンドとアウトバウンドの差が大きい。トルコはFDIインバウンドが165億ドルであるのに対して、同国からのFDIアウトバウンドは48億ドルであり、差し引き117億ドルのFDIインバウンド超過である。またエジプトの場合はFDIインバウンドが69億ドルに対してFDIアウトバウンドは2億ドルに過ぎず、差し引き67億ドルのインバウンド超過である。エジプトは自国資金だけでは足らず外国からの直接投資に大きく依存していることを示している。
イスラエルはインバウンドとアウトバウンドがほぼ均衡しておりインバウンドが若干上回っている状況である。産油国でオイルマネーが豊かなUAEとサウジアラビアは建設ブームなど国内の資金需要も大きく、インバウンドがアウトバウンドよりやや多い。これに対して同じ産油国であるカタールとクウェイトは国内の資金需要が小さいため余剰オイルマネーが海外に流れていることがうかがわれる。カタールはFDIアウトバウンド40億ドルに対してFDIインバウンドは11億ドルにとどまっており差し引き30億ドルの大幅な出超である。クウェイトの場合はその差額がさらに大きくFDIアウトバウンド54億ドルに対しFDIインバウンドはわずか3億ドルであり51億ドルの資本流出超過となっている。
同じ湾岸産油国でありながらサウジアラビア・UAEとクウェイト・カタールが対照的な様相を示している最大の理由は国内における投資機会の大きさによるものと考えられる。サウジアラビアは湾岸産油国の中では人口も経済規模も大きく、また政府が雇用創出のため積極的に国内産業を育成し外国との合弁事業を奨励している。またUAEはドバイが中東・アフリカ・中央アジア経済圏の中継ハブ基地として発展を遂げており外国資本がUAEへの進出を加速させている。
一方、同じ湾岸産油国でもクウェイト及びカタールは石油・天然ガスの価格高騰により国内に資金が溢れているにも関わらず自国の経済規模が小さい。このため国内での投資機会が乏しく、外国資本にとっても投資の魅力が乏しい。このため外国からの投資が少ない一方、国内資本は海外に投資している。カタールは2022年のサッカー・ワールドカップを目指し巨大なインフラ投資が行われているが、同国は国内に蓄積された資本が多く外国からの資金導入の必要性が少ないと考えられる。クウェイトの場合は政府と議会の対立により国内投資が停滞し、長期間にわたり資本の出超傾向が続いている。同国は外国資本から相手にされず、自国の投資家からも見放されているのが実情である。
(続く)
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