2016年07月22日
MENA(中東・北アフリカ)諸国と世界の主要国のソブリン格付け(2016年7月現在) (下)
(注)本レポートは「マイライブラリ(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。
2.7月1日現在の各国の格付け状況
(表:http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/1-G-3-01.pdf参照)
(EU離脱により英国がついに最上級から一挙に2ランク格下げ!)
(1)日米欧先進国およびMENA諸国の格付け
今回の格付けで最も注目すべき点はこれまで最上級格付けAAA(トリプルA)の常連であった英国が2ランク格下げされAAとなったことであろう。英国は国民投票でEU離脱が決まったことから今後の経済の見通しが極めて不透明な状態になった。これが景気変動に最も敏感な国債格付け(ソブリン格付け)に直ちに反映したと言えよう。
英国は今回の格下げの結果、これまで通りトリプルAの格付けを維持したドイツ、スイス、ノルウェー、オランダ等に引き離され、AA+の米国よりさらに1ランク低いフランスと同じAランクとなった。これは中東の産油国カタール、クウェイト及びアブダビ(UAE)と同等のランクである。なお非西欧諸国であるがアジア・オセアニア地域のオーストラリア、シンガポールおよび香港はこれまで同様最上級のAAAを保持している。
極東アジアでは中国、韓国及び台湾はAA-であり、英仏やアブダビなど中東産油国より1ランク低いAA-である。極東4カ国の一角を占める日本は昨年後半にランクがAA-からA+に下がっており、イスラエル、アイルランドなどとおなじランクである。
GCC6カ国のうちクウェイト、カタールおよびアブダビ(UAEは首長国毎の格付けでありドバイは格付けされていない)は上記の通りAAであるが、GCC最大の経済規模を誇るサウジアラビアは今年前半にA+からA-に2ランク格下げされている。同国は昨年前半まではアブダビ、クウェイト、カタールと同じA+であったが過去1年間の間に4ランクも格下げされている。原油価格の低迷で同国の財政は厳しい試練に直面しており、外貨準備高が急速に目減りするだけでなく、7年ぶりに国債発行を余儀なくされている。財務改善のめどが立たないことに対し格付け機関は厳しい姿勢を見せている。
財務状況が悪化しているのはオマーンおよびバハレーンも同様であり、オマーンは昨年1月現在のAランクから今回の今年7月現在はBBB-へ4ランク落ちている。因みにBBB-は投資適格の最低ランクである。またバハレーンはBBB-からBBに格下げされており投資不適格の範疇になっている。
その他のMENA諸国ではモロッコはBBB-でかろうじて投資適格の格付けを維持しているが、トルコ(BB+)(注)、ヨルダン(BB-)は投資不適格とされている。またエジプト、レバノン及びイラクはさらに低いB-の格付けである。なおEUのギリシャもこれら3か国とおなじ格付けであるが、同国は昨年後半のCCC-から格付けが1ランクアップしている。
(注)トルコはクーデタ未遂事件を受け、格付けは1ランク下がりBB(Negative)になった。
(東南アジア諸国は投資適格と不適格の境目に偏在!)
(2)新興国:BRICsおよびアジアの発展途上国の格付け
アジア・オセアニア地域では上記の通りオーストラリア、シンガポールおよび香港が独、スイスなど西欧諸国に並ぶ最上級AAAの格付けであり、東アジアの中国、韓国、台湾は日本より高い格付けAA-を得ている。東南アジア諸国ではタイがBBB+、フィリピンはBBB、インドがBBB-である。BBBはS&Pの格付け定義では「債務を履行する能力は適切であるが、事業環境や経済状況の悪化によって債務履行能力が低下する可能性がより高い」とされ投資適格の中で最も低いランクである。
そしてインドネシアはBB+、ベトナムはBB-であり、これは格付け定義で「より低い格付けの発行体ほど脆弱ではないが、事業環境、財務状況、または経済状況の悪化に対して大きな不確実性、脆弱性を有しており、状況によっては債務を期日通りに履行する能力が不十分となる可能性がある」とされ、投機的要素が強いとみなされている。
BRICs諸国のうち中国、インドは上記の通りそれぞれAA-およびBBB-である。南アフリカはインドと同じ投資適格では最も低いBBB-であり、ロシアはBB+、ブラジルはBBで共に投資不適格の範疇とされている。
以上
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