2017年05月29日

平和の切り札トランプ? 米国中東政策の動向を探る(3)

(注)本レポート1~5は「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。
 
http://mylibrary.maeda1.jp/0412TrumpME2017.pdf


 
2017.5.29

荒葉一也

 

 

3.トランプ大統領就任後初の外遊は三大聖地への巡礼

 4月11日付の第1章「中東各国首脳の相次ぐ訪米とその狙い」で触れたサウジアラビア副皇太子、エジプト・シーシ大統領、ヨルダン・アブダッラー国王のワシントン訪問後も中東諸国首脳のトランプ詣では引きも切らず、5月9日にパレスチナのアッバス大統領(PLO議長)、翌日にはトルコのエルドガン大統領、そして16日にはUAEアブダビのムハンマド皇太子が相次いでホワイトハウスでトランプ大統領と会談している。

 

 そのような中でトランプ大統領の就任後初の外遊日程が発表された。最初の訪問国はサウジアラビア、次いでイスラエル、バチカンと三大聖地を巡礼し、その後NATOサミット及びイタリアでのG7サミットに出席するという日程である。米国新大統領の最初の外国訪問はカナダなどの隣国或いは西欧の同盟国と相場が決まっているが、いわばその慣例を破って最初の訪問国に中東アラブ・イスラームのサウジアラビアを選んだことは世界を驚かせた。サウジアラビアにはイスラームの聖地マッカがある。そしてイスラエルはユダヤ教の祖国であり、バチカンはキリスト教カトリック教会の総本山である。宗教に起因するテロや国家間の摩擦が多発している中でトランプ大統領がこれら3か国を一筆書きのように連続して訪問することは極めて象徴的であり、成果云々は別としてなかなか味のある旅程であると言えよう。

 

 三大宗教の聖地を訪問する意味をキャッチコピー風に表現するとすれば、まずサウジアラビア訪問は目下の中東の最大の課題「イスラム国(IS)」を壊滅し、さらにイスラム過激主義の震源地イランを孤立させること、つまり善と悪の最終戦に向けて、米国が平和を守る唯一最強の司令官であるとアピールすることである。そしてイスラエル訪問は歴代大統領が誰も無しえなかった中東和平に道をつけ、偉大な大統領としてレガシー(神話)を残すことであろう。勿論イスラエル寄りの米国がイスラエルとパレスチナを平等に扱うことはない。米国のユダヤロビーが喜びそうなシナリオが描いていることは間違いない。そしてバチカン訪問はトランプの支持者である敬虔で保守的な米国内のキリスト教信者に対するアピールであろう。但しこれらのキャッチコピーの裏にはトランプ大統領お得意のディール(取引き)が隠されていることも間違いない。以下にそれを見てみよう。

 

(1)サウジアラビア訪問(5月20-22日):平和を守る司令官を演出

TrumpSaiman
 トランプ大統領が就任後最初の訪問国に何故サウジアラビアを選んだかは不可解である。しかし初訪問国に選ばれたサウジアラビアにとっては理由はともあれサルマン国王から一般国民までとにかく有頂天になったようである。

 

 もともとサウジアラビアは官民挙げて大のアメリカびいきであり、それは片思いに近いほど熱烈なものである。しかし911同時多発テロの首謀者がサウジ出身のオサマビンラーデンであったことから、米国に反サウジ感情が広がった。一方でオバマ前大統領がイランとの核合意を締結したことで今度はシーア派イランとの因縁の対立を続けるサウジアラビア、特にサルマンを筆頭とするサウド家支配層に反米感情が生まれた。それは反米感情と言うよりむしろ嫌オバマ感情だった。従って大統領がオバマからトランプに交代したとき、サウジ政府は対米関係改善に腐心した。それはトランプがアラブ人旅行者の米国入国禁止の大統領令に署名したときもサウジ側は静観の姿勢をとったほどである。

 

 トランプ大統領の来訪に備えサウジ政府は大統領と国王の二国間首脳会談の他、米国・GCCサミット及び米国とアラブ・イスラム諸国の三つのサミットを設営した。米・アラブ・イスラム諸国サミットにはエジプトのシーシ大統領、ヨルダンのアブダッラー国王などアラブ諸国首脳に加えパキスタンなどのイスラム各国首脳も駆けつけ、米国とこれらの国々が協力してイスラム過激派に対抗することが合意された[1]。そしてそこには米国とサウジアラビアが共通の敵とみなすイランに対する非難宣言もしっかり盛り込まれたのである。米・イスラムのサミットとは言えそこではスンニ派のイランは排除された。トランプ大統領は「平和の司令官」として中東・イスラム各国を叱咤激励した。

 

 こうして外交面では華々しいショーが二日間にわたって繰り広げられた。但し外交ショーにおける論点はあいまいであり、中東に真の和平をもたらす具体的成果は乏しかった。米国にとってはトランプ大統領の外交デビューを麗々しく印象付けること、そしてサウジアラビアのサウド家世俗政権は地域におけるリーダーとして面目を施すという双方の利害に沿ったものだったと言えよう。

 

 しかし「ディール(取引)」を重んじるトランプ大統領がそれだけで満足する訳がない。彼はサウジ側から大きな土産を手にした。それは軍事面では航空機、ミサイル、地上兵器、テロ対策用電子機器など総額1,100億ドルに達する巨額の武器取引であり[2]、またGE、ハネウェルなど企業のCEOが大統領に同行、

民間部門でも大きな商談を成立させた[3]。米国政府は今回のトランプ大統領のサウジ訪問で少なく見積もっても3,800億ドルの商談がまとまったと発表している。円に換算すると40兆円という天文学的な金額である。

 

 これがサウジアラビアの対米貿易収支を悪化させ、財政負担になることは間違いない。米国の貿易赤字を問題視するトランプ大統領であるが、他国の対米貿易赤字は眼中にない。それどころか、トランプ大統領は帰国後にサウジアラビア向けの武器やプラント輸出により国内の雇用が増えたとPRするに違いない。とにかく彼にとっては「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」の中東訪問であった。

 

(続く)

 

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       荒葉一也

       E-mail; areha_kazuya@jcom.home.ne.jp

       携帯; 090-9157-3642



[1] Trump: Muslim countries must take lead in fighting terror

2017/5/21 Arab News

http://www.arabnews.com/node/1102721/saudi-arabia

[2] US says nearly $110 billion worth of military deals inked with Kingdom

2017/5/21 Arab News

http://www.arabnews.com/node/1102646/saudi-arabia

[3] Multibillion-dollar deals sealed at Saudi-US CEO Forum

2017/5/21 Arab News

http://www.arabnews.com/node/1102641/saudi-arabia

 



drecom_ocin_japan at 09:02コメント(0)トラックバック(0) 

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