2017年07月23日

カタールGCC離脱(Qatarexit)の可能性も:カタールとサウジ国交断絶(3)

(注)本レポート(1)~(3)は「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してお読みいただけます。
http://mylibrary.maeda1.jp/0416GccDispute2017July.pdf

 

2017.7.23

荒葉一也

 

3.ジレンマの米国:武器は売りたし、基地は借り続けたしTrumph

 カタールに断交を突きつけたサウジアラビア、UAE、エジプト及びバハレーン4か国、いわゆる「対テロ4か国同盟」(Anti-Terror Quartet、略称ATQ)は、622日、カタールに13か条の要求を突きつけ、その回答期限を10日間とした。アルジャジーラ放送局の閉鎖、トルコ駐留軍の撤退などを求めた強硬な要求に対してカタール側は「拒否する以外に選択肢のない要求である」と強く反発した。

 

 同じGCCの一員であるクウェイトが仲介役として乗り出しサバーハ首長はリヤドとドーハの間でシャトル外交を繰り返している。しかし諸外国にとっては所詮GCC君主制国家の内輪喧嘩であり、当事者同士で話し合い解決するのがベストと見ている。先進国の中では最も利害関係が深い米国のホワイトハウスも当初は「Family issue (家庭の問題)」と突き放した姿勢であった[1]

 

しかし問題解決の糸口を見い出せないままATQ4か国とカタールは互いを非難し、自らの正当性を主張するPR合戦の様相を呈している。これ以上事態がエスカレートし、万一ペルシャ(アラビア)湾からの石油或いは天然ガスの供給に問題が生じれば日本、中国、インドを含むアジア各国は大きな影響を受けることは間違いない。日本の場合、サウジアラビア、UAEに石油を、またカタールに天然ガスを頼っているため、どちらか一方の肩を持つ訳にはいかない。日本自身が調停に乗り出す可能性もないではないが、世界的に石油・天然ガスは余っており中東以外からも買い付けやすい状況を考えれば、ここは下手に調停役を買って出た挙句どちらか一方から恨みを買うという最悪のリスクを考えれば静観するのが得策であろう。

 

ところが米国のトランプ政権はこのまま「Family issue(家庭の問題)」として静観ばかりしていられないようである。エネルギー需給の面だけで見ればシェール・オイル及びシェールガスの増産により米国はエネルギーの自給率を高めており、サウジアラビア・UAEの石油或いはカタールの天然ガスは米国にとって大きな問題ではない。

 

それでは米国にとってこれら湾岸の国々に対する死活的利益が何かと言えばそれは「軍事的利益」なのである。わかりやすく言えばそれはサウジアラビア(及びUAE)にもっと多くの武器を売りつけることであり、一方カタールに対してはウデイド空軍基地を、またバハレーンに対しては海軍基地を引き続き利用できることなのである。

 

 トランプ政権にとって武器の輸出拡大は国内産業を活性化し雇用を確保することにつながり選挙公約を実現する手段となる。そしてペルシャ(アラビア)湾に自国の空軍基地、海軍基地を維持することはイラン、トルコ或いはロシアににらみを利かせイスラエルを支えるという「偉大な米国」或いは「アメリカ・ファースト」政策にピッタリなのである。付け加えて言うなら民主党政権を破り共和党政権を樹立したトランプは中東から太平洋に軸足を移そうとしたオバマの足跡を消し去ることで自己の存在感を高めようとしていると考えられなくもない。

 

 彼の中東外交はさしあたり成功しているようである。オバマ時代に最悪になった米国とサウジアラビアの関係は劇的に改善し、サウジアラビアを最初の外国訪問地に選んだトランプ大統領はサルマン国王から大歓迎を受け1,100億ドルと言われる巨額の武器契約を取り付けたのである[2]。そしてカタールのウデイド空軍基地はイスラム国(IS)の偵察基地、攻撃発進基地として成果を上げている。これはシリア・アサド政権と結託し中東でのプレゼンスを高めていたロシアを抑え込む効果も発揮している。

 

 米国ではティラーセン国務長官が紛争の調停に当たった。因みにティラーセンは国務長官就任前は国際石油企業ExxonMobilのCEOであった。ExxonMobilはサウジアラムコ創設時のメンバーであり、現在もサウジアラビアと深いつながりがある。同時にExxonMobilはカタールの天然ガス事業にも合弁事業として参加している。このためティラーセンはCEO時代に頻繁にサウジアラビアとカタールを訪問しておりそれぞれの事情に精通した第一人者である。

 

 しかし外交問題の責任者としての国務長官とこれまでの民間企業CEOとではかなり勝手が違ったようである。ティラーセンはサウジアラビアとカタールそして仲介役のクウェイトを精力的に駆け巡るシャトル外交を展開したが思うような結果は出なかった[3]

 

 最近の報道ではクウェイトの調停が実を結んだのであろうか、UAEからは態度軟化のシグナルが出ている。そして28日にはカタールのタミーム首長が外交関係修復のための協議に応じるとテレビで演説した[4]。彼が一連の問題について発言するのは6月初めの国交断絶以来1か月半ぶりのことである。4か国とカタールが一刻も早く無益な対立を解消することを願うばかりである。

 

以上

 

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       荒葉一也

       E-mail; areha_kazuya@jcom.home.ne.jp

       携帯; 090-9157-3642



[1] Demands presented unreasonable: Doha

2017/6/25 Arab Times

http://www.arabtimesonline.com/news/demands-presented-unreasonable-doha/

[2] US says nearly $110 billion worth of military deals inked with Kingdom

2017/5/21 Arab News

http://www.arabnews.com/node/1102646/saudi-arabia

[3] No light seen at the end of Qatar tunnel

2017/7/13Saudi Gazette

http://saudigazette.com.sa/article/512813/SAUDI-ARABIA/Rex-Tillerson

[4] Emir says Qatar ready to talk but "sovereignty must be respected"

2017/7/21 The Peninsula

http://www.thepeninsulaqatar.com/article/21/07/2017/Emir-says-Qatar-ready-to-talk-but-sovereignty-must-be-respected



drecom_ocin_japan at 11:15コメント(0)荒葉一也シリーズ  

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