2018年04月17日
混迷深まるサウジアラビア(その4):先の見えないアラムコIPO(株式上場)
2018.4.17
(注)本レポートは昨年(2017年)3月の「(ニュース解説)サウジアラムコIPO(株式公開)の行方は?」の続報です。合わせてお読みいただくことをお勧めします。
UDL:http://mylibrary.maeda1.jp/0400AramcoIpoMar2017.pdf
「虎の子」が「張子の虎」になりかねないアラムコIPOの暗雲
鳴り物入りで始まったサウジアラビア国営石油会社サウジアラムコのIPO(株式公開)の雲行きが怪しくなっている。2016年にムハンマド皇太子(略称:MbS)が発表した構想ではアラムコの企業価値を2兆ドルと査定し、その5%即ち1千億ドルの株式を2018年中にサウジ国内及び海外市場に上場するというものであった。その後欧米の一流金融機関をアドバイザーに起用、公開準備が着々と進んでいるやに見えた。
MbSは2030年までに石油に依存しない経済を樹立するという野心的な計画「ビジョン2030」を打ち出し、非石油産業の育成を掲げた。そしてそのための資金的裏付けとして国営のサウジアラムコを株式会社に転換、株式市場を通じて国内外の民間資金の導入を図ろうという腹づもりである。これまで石油経済からの脱却を声高に唱えながら、今も石油に依存せざるを得ない現状を打開するには「虎の子」のサウジアラムコを利用するしかないという皮肉な状況に追い込まれているのである。
ところが最近になってアラムコの準備作業の遅れがささやかれ、IPOは2019年にずれ込むとの報道が目立ち始めた。また海外の上場先についてもニューヨーク市場が本命と言われながらいまだに決まらない状況である。さらにサウジ政府が約束していたアラムコの資産状況を示す財務諸表も公表されていない。また皇太子が見積もったアラムコの企業価値2兆ドルは高すぎるという一部欧米アナリストの懸念も払しょくされていない。
このままでは「虎の子」のアラムコが「張子の虎」になりかねない状況である。アラムコが欧米のスーパーメジャーを凌ぐ世界最大の石油会社であることは間違いなく、「張子の虎」と呼ぶのは無礼かもしれないが、アラムコの実態が部外者にはほとんどわからず、またIPOが難航しているという意味で筆者はアラムコを「張り子の虎」と見立てたのである。
どんどんずれ込む公開時期
アラムコのIPOは2016年1月に当時副皇太子であったムハンマド(MbS)がEconomist誌のインタビューで初めて明かした。世界のメディアがこのニュースに飛びつき、IPOの時期或は海外のいずれの株式市場に上場するかで情報が乱れ飛んだ。同年4月には早々とIPOアドバイザーが選定され、当事者から公開時期を2018年とする発言が繰り返されるなど、公開準備が着々と進んでいる様子がうかがわれた。さらに政府関係者からは同社の財務諸表が2017年中に作成されるとの発言も飛び出した。
ところがその後はサウジ側からの新たな公式発表は途絶えたままで、FalihアラムコCEOはメディアからIPOの遅れを問われると、作業は予定通り進んでおり、2018年中に上場すると判で押したように答えるばかりである。リヤド株式市場Tadawulに加えニューヨーク或はロンドンで上場する場合、上場審査期間を考慮すると今年第1四半期が申請書類提出期限と見られており、すでにタイムリミットは過ぎている。このため今年中の外国市場への上場は不可能と考えるのが順当であろう。
ニューヨーク上場が本命だが
サウジでは当初からリヤド市場の他、複数の海外市場での上場を目指していた。アラムコの企業価値2兆ドル、IPO規模1千億ドルをリヤドのTadawulだけで賄うことは庭先の池に鯨を放つに等しい暴挙であり無理がある。海外での公開先はニューヨークNYSEとロンドンLSEに絞られており、ロンドンは好条件をちらつかせているが、MbSの狙いが世界最高のネームバリューを有するニューヨーク上場にあることは疑う余地が無い。但し資本主義の牙城ともいえるNYSEは投資家保護のため上場基準が厳しい。まして米国内には911事件を契機とするサウジ・アレルギーが強くJASTA法も立ちはだかっている。また名うての訴訟社会の米国では上場後も決算内容によっては訴訟リスクが避けられない。
ニューヨーク(あるいはロンドン)上場に替わる代案としてロシア・中国の投資家に直接譲渡する案も飛び出しているが政治的リスクはこちらの方が大きく、MbSとしては何とかNYSE上場を実現したいはずである。ここから先は筆者の憶測であるが、MbSは今回の訪米時にトランプ大統領との会談の中でアラムコの上場について米国政府の格別の配慮を要請したと推測される。英国がメイ首相自ら誘致条件の緩和を提案しているだけに、MbSはトランプ大統領に期待したはずである。しかし報道を見る限りアラムコIPO問題が取り上げられた形跡はない。仮に両者の会談でIPO問題が触れられたとしても、多分トランプ大統領はビジネスライクな対応をとったに違いない。
蛇足ながら今回のMbSの訪米はアラムコ問題に限らずエルサレム大使館移転問題、シリア問題などあらゆる点においてMbSの希望を打ち砕いたように見えるのである。アラムコ上場問題は混迷の深まるサウジアラビアの一面を示していると言えよう。
以上