荒葉一也シリーズ
2017年04月11日
(注)本レポート1~5は「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。
http://mylibrary.maeda1.jp/0412TrumpME2017.pdf
2017.4.11
荒葉一也
1中東各国首脳の相次ぐ訪米とその狙い
トランプ新政権が本格的な活動を開始、日本の安倍首相をはじめ世界各国の首脳がこぞってワシントンを訪問し自国権益の絡む外交・経済・軍事等の諸問題についてトランプ大統領と意見交換を行っている。
そのような動きの中で中東各国首脳のホワイトハウス詣でが相次いでいる。それらを列挙すると、2月15日のイスラエルのネタニヤフ首相を皮切りに3月14日にサウジアラビアNo.3のムハンマド副皇太子(MbS)、4月3日にエジプトのシーシ大統領、同5日にはヨルダンのアブダッラー国王がそれぞれトランプ大統領と会談している(注、アブダッラー国王は既に2月4日にもトランプ大統領に会っている)。そしてPLOのアッバス議長もトランプ大統領との電話会談(3月10日)に基づき今月中に訪米の予定である。
これらの日程と前後して中東地域の紛争をめぐる国際会議も並行して行われている。シリア和平については1月23日にカザフスタンの首都アスタナでロシア主導の会議が開催される一方、西欧・国連主導により2月23日にスイス・ジュネーブで実に10か月ぶりに和平協議が再開された。またイエメン紛争についても停戦協議が断続的に行われている。
このような情勢下でトランプ大統領との会談に臨む各国首脳の狙いはそれぞれの国によって異なり、また世界唯一の超大国である米国に対する要望事項も多様である。各国の訪米の狙いは概略以下のようなものであろう。
まずイスラエルについてはオバマ前民主党政権時代に両国の関係は過去最悪に陥ったが、伝統的に親イスラエルの共和党政権に代わったことでネタニヤフ首相は旧来の友好関係に戻ることを期待している。そして同首相はこれまで米国を含め国際社会が掲げてきたイスラエル・パレスチナ二国家共存の基本原則をトランプ政権が棚上げし、また入植地拡大を米国が黙認することを強く願っている。さらにあわよくばトランプ大統領自らが選挙運動中に打ち出した米国大使館のエルサレム移転が実現すれば万々歳と言うことであろう。
次にサウジアラビアであるが、同国はサウド家による絶対君主制の世俗国家であり支配体制を維持することが最重要課題である。これに対してアメリカではサウジアラビアを独裁的で男女同権を認めない封建国家とみなしており、民主主義勢力はサウド家の支配に疑いの目を向けている。サウジアラビアは外部の目を少しでもそらすため自らをイスラームの盟主と位置づけ、国王は国内にあるイスラームの二大聖地マッカとマディナの守護者を僭称している。さらに豊かなオイルマネーを巨額の兵器購入に充てることで米国の軍需産業に貢献し、米国政府と緊密な関係を維持している。サウジアラビアが米国に望むことは今後もサウド家の後ろ盾となって地域紛争に介入しシーア派のイランを共通の敵としてスンニ派アラブ諸国をイランの魔手から守ってもらいたいということである。
エジプトとヨルダンが米国に望むことは物心両面にわたる米国の支援であり、貧しい両国にとって米国の援助は欠かせない。エジプトのシーシ政権は「アラブの春」で政権を握ったムスリム同胞団のムルシ政権をクーデタで転覆させた軍事政権である。このため国際社会はシーシ政権を民主主義の敵と見なしている。しかし人口8千万人を超えるアラブの大国エジプトはやはり「腐っても鯛」であり、米国に対するセールスポイントは昔も今も「安心できる中東のリーダー」である。米国もそのことは十分承知しており不安定なイスラーム主義政権よりも安定した軍事独裁政権を好むのである。またヨルダンは小国ではあるが、その外交手腕には並々ならぬものがあり、伝統的なイスラエル・パレスチナ紛争にとどまらず、「イスラーム国(IS)」によるシリア難民問題についても利害が輻輳する関係国の調停役としてその存在感を示している。ヨルダンの対米セールスポイントは「外交力」であると言えよう。
最期は中東和平問題の当事者パレスチナのアッバス議長である。トランプ大統領との会談は未だ決定していないが、彼がワシントンに赴く理由は「もうこれ以上パレスチナを見放さないでくれ!」という単純な訴えであろう。相手のイスラエルは強くなりすぎ国連決議を無視してヨルダン川西岸のパレスチナ人の土地に不法入植地を拡大しておりパレスチナを鼻から相手にしない。周辺のアラブ諸国は国際会議の場でパレスチナ支援を声高に叫ぶが口先だけで具体的な行動は全く起こさない。彼らスンニ派アラブ諸国はシーア派イランの脅威に怯え、さらには同じスンニ派の「イスラーム国(IS)」或いはアル・カイダなどイスラーム過激派の影におびえ右往左往するばかりである。カネのある湾岸君主制国家はほんの一部のオイルマネーをパレスチナに分け与えることで免罪符を買ったつもりでいる。またこれまで同情を寄せてくれていたドイツ、フランスなどヨーロッパの民主主義・人権団体も頻発するイスラム・テロの無差別殺人事件を目の当たりにしてパレスチナ支援には腰が引けている。今やパレスチナが頼れるのは米国だけである。しかしアッバスPLO議長にとって大きな問題は米国への手土産が何一つ無いことである。パレスチナにはトランプ大統領に対する切り札が無いのである。
以上述べたようにイスラエル、サウジアラビア、エジプト、ヨルダンそしてパレスチナはそれぞれ立場も利害も全く異なる中、お互いの話し合いで問題を解決する能力が完全に欠如している。彼ら自身の問題を解決してくれそうなのは米国しかないのである。トランプ大統領こそ問題解決の唯一の切り札―オールマイティーである。
こうして彼らは続々とトランプ詣でに精を出している。それでは頼られる側のトランプ大統領は各国の相矛盾する要望にどのように答えるつもりであろうか?
(続く)
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荒葉一也
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